8月1日
夜も更けてきて、月明りが波の揺らぎを静かに照らす中。
わくわくとあよが持参した花火の袋を開ける。
静かな夜の中、皆が思い思いに花火を手にしていく。
楽しい一日はじきに終わりを迎える。
「来夏、来夏。人魂の花火あった。ひとだまくん。やろう」
「あー、いいよ?あよセンパイ面白いもん持ってきたな~」
あよの持ってきた花火の中には様々な種類があるようで。
銃の形や線香花火、打ち上げ花火…その他諸々。
今李々が手にしているのは人魂のように光る花火だ。
「本物もこんなのかな。見れるかな」
「さぁ?この雰囲気だと出そうではあるけど見れそうではないよね」
「出そうなのに見れそうじゃない?どうして?」
矛盾する言葉にこてん、と首を傾げる。
「ここ人いないから」
「人がいないと見れない?」
「だって『人』魂だし。あと単純に発光物がそんなないよね、人いないから」
「人と人魂は違うと思う。……違わない?」
「人の魂って書くから、そもそも人いなかったら魂にもならない気がする。あと、人魂って大体は光の見え方で映ってしまったものとかだろうし」
「……!?そうなの……!?じゃあ、人魂、存在しない……!?」
驚きの事実に水色の目をまあるくする。
「地中に埋まってる成分が死体を埋めることで科学反応起こして光ったりとかね~、なんか諸説ある…」
「か、科学反応…………」
「今光ってるのだって他の人が見たら本物の人魂に見えるかもしれないけどー…俺たちはニセモノって思ってるし。これに火をつけたの俺だから」
幼馴染は結構物知りなようだ。
「ひとだまくん……。来夏は人魂、信じてない?」
オカルトサークルにいるってことは、そういうのが好きなんじゃないのかなと。なのに、信じてはいないのだろうか。 9
「信じてるよ~、いたら良いよね」
「……そういうところ、良くないと思う」
むむ、と頬を膨らませて抗議するけれど、来夏は意に介さないようだ。
いつものように適当な反応。
「っと。消えちゃった〜」
「……別の、やる?」
「ん、いいよ〜」
今度はネズミ花火を取り出して、二人の真ん中に。
「……ん」
「着火しまーす」
にこにこしながら来夏が火をつけ、急いで逃げる。
「にーげろ〜!」
「わーい」
「これはとても活きがいいネズミ花火。やりおる」
「ね〜」
やがてしゅん…と消えた花火を見て、そっと片付け。
「……む、消えた。はかない命……」
「よく人の人生に例えられるからね〜。」
「それはネズミ花火より線香花火な気がする」
「花火が儚い話じゃないの?ま、なんでも良いけど。」
「うーん。なんでもいいかな?わたしは線香花火よりネズミ花火の方がいいな」
「猫みたい。」
「猫もいいかもしれない。楽しそうだもんね。にゃーん」
李々はふと、少し離れたところでぽつんとしている蒼を見て、そっと駆け寄る。
「……蒼、蒼は花火好き?」
「………ん!?あ、ああ……花火?まあ好きかな…綺麗だし、変化があって見てて飽きないから」
急なことに驚きつつも答えれば、李々はにこにこと嬉しそうな顔をしていた。
「じゃあ蒼もやろう、花火。何色が好き?」
「おれは水色とか……青系がすきかな」
「青色。蒼の名前と同じ。わたしも好き。じゃあ取ってくる」
「あ、………」
取りに行かせてしまったな、と少し後悔。
「取ってきた。青色の花火。へいパース」
「おぉ!ありがとう。花火ちゃんと見てなかったけど結構種類あるんだ…?」
「他のも色々あった。から、みんなとやろうね」
「ああ、うん。…みんなとやればもっと楽しいからなぁ〜」
みんなとやれば楽しい。
李々はそれにうん、うんと嬉しそうに頷いて、
「他にも、一緒に花火やる人~!」と声を張り上げる。
「ボクやりたいです~!」
「あっ!やりたい!やりたいです!!!」
すぐに手を挙げた二人に花火を見せて選ばせる。
「む。氷華と香澄。何色がいい?」
「わ、りりちゃんありがとうございます!赤がいいです!」
「じゃあ、氷華は赤。あげる」
「ありがとうございます 花火なんて久しぶりです…火をつけるんですよね!」
氷華はお兄ちゃんとおなじ色を受け取って火をつける。
「ふふふ。赤色の花火も綺麗だね。いちご味のかき氷みたいな色」
「わあ…はい、綺麗です……!ふふ、例えが美味しそうですね!」
対して香澄は迷っているようだった。う~ん、と頭を悩ませる。
「う〜ん…オレンジ…ピンク…?うむむ…りりちゃんはどれが好きですか?」
「わたし?わたしはね、水色が好き」
「なるほど……なら私も水色にします!」
迷ったときは、友達の好きな色。なんて。
「……いいの?香澄の好きな色でいいのに。でも、ちょっと嬉しい。はい」
「ありがとうございます!」
ぽっと火を灯せば、涼やかな色が暗闇を照らす。
「水色も綺麗。こっちはブルーハワイ。どっちも美味しそうだね」
食べ物のことばかり考えていると、ぐう、とお腹が反応しそうになる。
「かき氷、食べたくなってきた……。合宿、終わったらみんなで食べに行こ」
「!はい!食べに行きましょう〜!!」
「かき氷!ふふん、ボクが一番歳上ですから、奢っちゃいますよ!」
「ふふ。じゃあ、先輩の氷華の奢り。楽しみ」
「はい!任せてください♪バイト代が残ってますからねえ!」
「わ…ほんとに奢って貰っちゃっていいんですか…?」
「へへ、2人とお出かけできるのが嬉しくて…お金は気にしないてください!」
ふふん、と腰に手を当てて胸を張った。
「お〜結構いっぱいある。銃っぽいの面白そう。」
がさごそと袋を漁り、新は銃型の花火を取り出す。
「?銃っぽいのなんてあるんですか…??」
「銃。カッコいい。わたしもやる~」
集まってくる皆にばら撒いていく。
「見てみて、結構しっかりしてるよ。やろう」
「カッコいいけど人に向けるのは駄目だからスパイごっこは出来ないね。ちょっと残念」新「銃なのに撃てる感じじゃないからしょぼいね。」
せっかくの花火なのに、…と少しがっかりしていると、
「形だけでも楽しいよ。ばーん」
李々がポーズをとりはじめた。
「確かに!そうですね〜ば〜ん!」
「ばーん!」
「ぼ、ボクもスパイになります…!ばん!」
李々の真似をして、香澄、くるり、氷華が銃の真似事をしていく。
「4人とも構えてて面白いなぁ…写真撮っていい?」
「ばっちこーい」
くすくすと笑って新がレンズを向ける。
「おれもおれも!」
横から蒼が割り込んで、
「写真ですか!ええと…」
「………!」
「いつでもいいわよ、新先輩」
皆がポーズを取り直す。
「おぉ、皆ノリいいなぁ笑 じゃあ、いくよー。」
カシャリ。
「じゃあそろそろいい時間だし、最後に派手にやりますか~!」
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
打ち上げ花火を横にずらりと並べ、火をつける。
色とりどりの火が、夜空に咲く。
「ふふふ。打ち上げ花火、綺麗だね~」
「ほんとに綺麗です…!」
ここに来て良かったと、そう思える。
いつか、こんなこともあったねと笑って話せるような。
そんな楽しい青春の一ページとなるだろう。
「今日一日、みんなと一緒でとっても楽しかった。きっと、明日もとっても楽しくて素敵な日になるね」
「そうね、きっと、もっと素敵な日になるわ」
「はい…いい日になりますよ…!!」
__________……
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