零話・前編

―その村には昔から神隠しのうわさがあった。 

 

 

「ねえ、聞いた?”また”あったらしいよ。すだま村の神隠し」

「またなの?……5年前にもあったばかりじゃない」

 

少女らが息をひそめて言葉を交わす。

その日は町中が同じうわさで溢れていた。

 

山をひとつ挟んで隣に位置するすだま村は70年も前に廃れた小さな村だ。

村が閉ざされたのは、ちょうど第二次世界大戦が終わった頃。

村人全員が不審死する事件が起こって以降人が近寄らなくなった曰くつきの村。

廃村と化して以降何度か人が訪れることはあったが、そのたびに行方不明者が出るという呪われた村。

 

近隣の住民は「あの村に入ってはいけない」と昔から言い聞かせられているから、忍び込む者はめったにいないのだけれど。

人が神隠しに遭う廃村…という噂が出回ってしまったためか、時折若者が村に入り込んでは、捜索願を出される羽目となっている。

 

今回もまた、遠方からきた青年二人が帰ってこないのだというはなしだ。

 

「でも、たまに帰ってくるひともいるんでしょう?」

「確かに生きて戻ってきたひともいるって聞いたことある。なんか、運が良ければ助けてもらえるらしいよ?…今回も帰ってくるといいんだけどね」

 

伝え聞いたはなしを思い出し見知らぬ他人の安否を気遣う級友のことばに、何を言っているのだろうと首を傾げる。

………あの村には誰も住んでいないはずなのに。

 

「……助けてもらえるって、だれに?」

 

________________…

 

「ねえねえみんな!呪われた廃村の探検、してみたくない?」

 

6月下旬、日差しが少しずつ強くなり始めた頃。

四折あよは長いポニーテールを上機嫌に揺らしながらそういった。

××大学オカルト研究会。

心霊、都市伝説、超常現象、はては未確認生物に魔術呪術古代遺跡など、さまざまな”オカルト”の調査研究を行うという名目でつくられたサークルだ。

現在は顧問を含め計10人で活動している。

リーダーであるあよはいつものようにハイテンションで皆を見渡した。

サークル活動は毎日参加というわけではないから、日によっている人間は違うことが多いのだけれど、今日は収集をかけておいたから珍しくメンバーが全員揃っている。

 

「今日も元気だなあ、あよセンパイ。呪われた廃村かー……廃村って沢山あると思うけどどこの廃村?」

識想望来夏が彼女の隣で興味深そうに問うた。

いつも皆を引っ張ってくれる彼女に巻き込まれるのは好きだ。

今度はどんな楽しいことになるのだろうかと心が浮き立つ。

 

「よく聞いてくれました!じゃじゃ~ん!」

とあよが声を弾ませ、鞄から取り出した紙の束を乱雑に机の上に広げる。

 

「わ、」

 

その拍子に風で飛ばされた一枚が朝凪香澄の顔に貼りついた。

廃村探検……!と胸を躍らせていた香澄は突然のことに固まってしまう。

けれどもすぐに視界を覆った紙は取り除かれた。

 

「よっと……香澄ちゃん大丈夫?」

「わ、あわわ……びっくりしたあ……。えへへ、すいません新先輩ありがとうございます……!」

 

三崎新はぺこぺこと申し訳なさそうに、けれども嬉しそうに礼を言う後輩の顔から取り除いた紙をあよに差し出す。

 

「あーちゃん先輩、はいこれ。地図みたいだけど…ここが呪われた廃村?」

「うむ、ご名答!さすがはあらたん!」

 

「ご提案するのはこちら!なんと今から70年前……昭和25年に廃村になってしまったすだま村!今回は夏休みを利用してサークルのみんなで旅行も兼ねて廃村探検に行こう!という計画なのだよ。もちろん当日はその場でお泊り!」

あよは受け取った地図をホワイトボードに張り出すと、バン!と叩いて指し示し、説明をはじめた。

 

「70年前か~。でもあよ、そんなに古い村でもう人が住んでないなら、建物とか崩れちゃってて危なくない?だいじょうぶ?」

 

山桜桃蒼が片手で自作のUMAぬいぐるみを弄りつつ心配そうに幼馴染に声をかける。

そばにはいつものようにラムネが置いてあり、ときどき口に運んでは満足げにしていた。

 

「大丈夫大丈夫、あたしに任せなさい!ちゃんと下調べはしてあるし、崩れそうな建物に入らなければ問題なし!廃村に泊まるのも一日だけだし、テントの中だしね」

 

「お泊り……皆さんと合宿ということですか?えへへ、とっても楽しそうですねえくるり。素敵です♪」

「ふふ、そうね氷華、とっても楽しみだわ。一緒に旅行の準備をしましょうね。」

自信満々に胸を張るあよを横目に、廃村お泊り計画を聞き瞳を輝かせた雪成氷華と七守くるりは顔を合わせて微笑みあう。

寮が同室で親友の二人は、前準備にせっかくなら新しい服を買いに行こうかなんて楽しげにしていた。

 

「合宿…じぶんもついていける?あまり早く歩けない、から…。たんさくとか、ゆっくりしかできない」

足が悪くいつも杖を手にしている語伽アガタは少し不安そうに首を傾げる。

 

「大丈夫。ゆっくり歩くし、アガタが疲れたらわたしが運んであげる。だから、心配ない」

日頃から彼をお姫様抱っこしている久々利李々が淡々と、けれど力強く言うと、アガタは

「ありがと、りぃりぃ」と安心したように僅かに微笑んだ。

その様子をくるりがちらりと見て、私も困ったことがあったら手伝うわよ、なんて声をかけようとしたところで、ガラリと扉が開いた。

 

「景彦お兄ちゃん!」

室内に足を踏み入れた日日景彦に、氷華が嬉しそうに名を呼ぶ。

「遅れてしまってすいません…。あれ、お話ってもう終わってしまいましたか?」

学生であるメンバーと違い、教員の景彦先生はまだ仕事があった為少しばかり遅れてしまったのだ。

氷華の頭を撫でながら、もう話は済んだのだろうかと申し訳なさそうに眉を下げる。

 

「遅いよかげぴ~!もう皆には伝えたけど、夏休みの間に皆で廃村探検とお泊り旅行に行くことになったから!かげぴ、運転よろしく♪」

有無を言わさずびしりと指を突きつける。

「え、え?廃村?僕が運転?」

困惑する景彦先生に、うむ任せたよなんて鷹揚に頷く。

 

「それじゃあかげぴも来て全員揃ったところで、日程とか決めてくよ~!」

 

__________________……

 

 

………8月1日

 

真夏のうだるような暑さに追い立てられながらたどり着いた村は、長い年月の果てにそのほとんどが緑に覆われ、都会と比べてずいぶんと涼しい風が通っていた。

ここに来るまでの間に車内ではしゃぎまくった10人は、けれども疲れた様子もなく、意気揚々と車を出、地面へ降り立つ。

見渡してみれば、確かに建物は廃村らしく寂れ朽ちているものの、よくオカルト番組に出ている廃墟のようなおどろおどろしい雰囲気はなく。

…どちらかといえば神聖な空気すら感じる。

 

違和感があるとすれば、これだけ緑に覆われているのに、虫の声も鳥の声もしないことだろうか。

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「よ~し、到着!皆の衆、探検する心の準備はいいかね!」

 

えいえいお~!と腕を掲げるあよの横で、景彦先生が各自にコピーした村の地図を配る。

 

「それじゃあ一旦二手に別れて探索しよっか!あたしのチームと景彦先生のチームに分かれるってことで!」

「あよさん、迷子にならないように気をつけてくださいね。くれぐれも怪我をしたりしないように……!」

 

教師らしく注意をする景彦先生に大丈夫!とあよが元気よくピースをすると、10人は思い思いに分かれて、探検へと向かっていった。

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