番外編

※企画参加者様が作った参話・識想望来夏視点(一回目)後の入浴シーンのシナリオ&スチルです。掲載許可済。

【視点:識想望来夏】

 

俺は血で濡れた体を洗うために浴槽へ行った。

浴槽の中が綺麗に磨かれている。

薪は定期的に追加され、毎日変えられているようだった。

座敷くんかな?

そう思いながら彼の怯えた顔を思い出しては頬が緩む。

俺は脱衣所で服を脱ぎ始める。

一緒に来た蒼センパイは…なぜが突っ立ったまま動かない。

 

「あれ?センパイ脱がないの?」

「え?一緒に入るの??」

 

予想外のことを聞かれた、と言わんばかりの疑問符が返ってくる。

じゃあなんでついてきたのかな、この人は。

 

「え、逆に…入らないの?」

「この流れで別々とかないしょー」

 

俺はいつもの調子で外堀を埋めていく。

このまま押せば、いいよって言ってくれる人なんだ。なんたってクソチョロセンパイだから。

 

「つれないこといわないでよセンパイ」

そう言いながら悲しそうな顔を作ると…

「…わーかったよ…入ります…」

そう言いながらしぶしぶ服を脱ぎ始めた。

相変わらずちょろい。

体についた血を洗いながし、五右衛門風呂に2人でつかる。

 

「そういえば合宿ぶりじゃない?大学入ってからセンパイなんかよそよそしいし。」

「よそよそしいは言いすぎか、なんか気がかりがありそうで人に余計遠慮をしてる感じ。」

「いやまあ…それに関しては何も言えないな…」

 

バツが悪そうな顔をするセンパイ。

あぁ、やっぱわかりやすいな、この人。

 

「言えないことのほうが多いのは昔からじゃない?お兄ちゃんって感じする。兄弟の一番上で我慢してそうなポジション」

 

ちょっと事前に仕入れていた情報から、つつく。

 

「え、そんな感じするの?おれ次男なんだけどな」

 

すると、俺の腹の中など知らずに能天気なセリフが返ってくる。

ふーん?そんな顔されると揶揄いたくなっちゃうんだけどな。

 

「なんて背負いたがりな次男なんだ~」えい!と水を掬うとセンパイに向けて発射する。

「ああ、兄いること言ってなかったっkびゃっ」

 

 

ふふ、水をかけられたことに驚いてる顔だ。

好きだなー、その反応。

水をかけたことには触れず、俺はすました顔で続ける。

 

「センパイ人の話聞いてばっかで自分の話しないんだもん」

「おれの話なんてそんな面白くないと思うしさ!あとあんまり家族の話したくないってのもあるから」

 

この人はこう言う風に育ってきたのか。面白くないなー。やはり面白くするには行動あるのみ。

 

「面白くないかは俺が決めるからいいよ。蒼センパイが面白くなるように話振ってるし?」

「おれが面白くなるように話振ってあれなんだ?」

 

気にするそぶりも見せず苦笑いする蒼センパイ。

 

「いつも反応ご馳走です。」

あはは、と俺も笑って答える。

 

「ははっ、それはそれはお粗末さまでした」

「…やーっぱおこんないんだよなぁ、普通からかわれるの嫌とかない?」

 

じっと目を見てセンパイの顔を伺う。

 

「悪意を感じないから別に嫌とかはないよ。だいたい来夏に至っては高校の時から変わらずに同じ感じだし。

…もしかして怒って欲しい願望でもある?」

「無いけどあるー。」

 

相変わらず返事になってない返事を返す。

 

「いやどっち」

 

これには優しいセンパイも食い気味にツッコんできた。

いつもの光景、いいね。こんな異質な空間でも俺たちは今この瞬間大学生してる。

 

「蒼センパイの好きな方でいいよ。

あ、優柔不断なセンパイには選べないだろうけどねー。

俺無茶しないから残念だな…サクメンの中で一番無茶しないから。」

「無茶しないと言ってもある意味目離せない後輩だよ…」

「んー………じゃ、見ててよ。」

 

ちょっと真面目な顔になってセンパイに言葉を返す。

 

「えっ?」

蒼センパイはきょとんとしてから…

「…うん、見てるよ」

そう言って優しく笑った。

 

「嘘つき。」

優しく笑ったセンパイに対して、俺は薄っぺらい笑顔を返す。

 

「む…今から見とくことにするし」

 

なんでむくれてるのかこのセンパイは。

ここに来てからの自分の行動を客観的に見てみてほしい。

 

「無理無理、俺より先に死にそうだし。」

 

そう思い、センパイの左手を見ながら言葉を紡ぐ。

 

「ひどすぎない?いや小指は…ただの不注意だし、これから気をつける…」

 

不注意ね、その指が何をするための指か知ってて言ってるのか。俺はそこまで馬鹿じゃないんだけどなー。

だから…嘘つき、っていったんだよ?

 

「信じて貰えるように先輩頑張らなくちゃなあ~」

 

やはり俺の腹の中などおそらく考えてないセンパイは笑いながら能天気な声を出した。

 

だからいつも通り、

これはいつも通りなんだ。

 

ね?センパイ

 

「どっちでもいいよ、俺は。」

 

本当にどっちでもいいんだ。

 

「…そろそろ上がろう…のぼせそう」

 

 

これ以上は限界、と主張するセンパイの声で俺たちは五右衛門風呂を後にした。