以前三崎先輩と一緒に来たことがある、薄暗い体育倉庫の扉を開く。
ギイ、と扉を軋ませ、中に入れば、何かが破かれるような……びり、びり、と小さな音。
見れば、何段も重ねられた跳び箱の、隙間から。
いくつもの黒い手が生えて、紙を引き裂いている。
それがなんなのかは覚えがあった。
前に来た時、跳び箱の中を見てしまったから、他の人が同じ目に遭わないようにと注意書きを遺したのだ。
あの、真っ暗な中にぎちりと詰まった大量の目玉と、消えることのない視線を、味わわずに済むようにって。
「わ、か、紙!やめてください…!」
大切な注意書きを消されては困るから、止めたくて。
慌てて近寄った瞬間、その真っ黒な手たちは、氷華の頬と左の手首を掴んだ。
ジュウ。
肉の焼けるような、嫌な音。
「っ………!!」
いや、ような…ではなかった。
熱い痛みが頬と手首を襲う。
咄嗟に振り払い、掴まれた自身の手に触れてみれば、皮膚が…ぐじゅぐじゅに爛れていた。
痛い!痛い!痛い!!
黒い手は、跳び箱の中へと戻っていく。
「あはは あは あはははははははは !!!!!!」
「おいしそう おきゃくさん おいしそう ね!!!!」
そうして、跳び箱の中から、無邪気な甲高い笑い声が響き続けていた。
「う……っ………ぁ………」
このままここに居てはいけない、そう分かっているのに、あまりの痛みに蹲ってしまう。
熱い。痛い。………おにいちゃん、
「だ、め、です………こんな、とこ、で…………止まっちゃ………」
はあ、と荒い息を吐き、瞳から溢れそうになる涙を堪えて、なんとか立ち上がる。
「よ、し……!ボク、がんばって、くださいよ」
_______
痛みを堪えながら、村の中を回る。
ここから出るために。
小さな病院の中へと入り、ふらふらと辺りを見渡す。
そうして、薬の入った棚の、引き出しを開けた。
この村は本当に理不尽だ。
ただ、引き出しの中を見ただけなのに。
ガラリと引いたその中には、白衣を纏った壮年の男が折りたたまれていた。
「ひ………」
思いがけない恐怖に身を震わせ、思わず後ずさりをする。
男はバキ、ボキ、とあらぬ方向に曲がった手足を鳴らしながら、ゆっくりと引き出しから出てくる。
体中から、蟲を溢れさせて。
ずる………と床に降り立ったそれは、何も言わず床を這いずり回っていた。
村の人に関わってはいけない。けど。
手足が、妙な方向に折れているから、心配になって。
「あ、あの、大丈夫ですかあ………?」
声をかけてしまった。
ぐるん!!!
首が大きく一回転し、男は氷華を見る。
バキ、ベキ、ゴリ、と音を鳴らして立ち上がり、ブツブツと呂律の回らない声で呟きながら、白衣のポケットに手を入れた。
「にく にくを しょくじ おめぐみを、 ?」
取り出されたのは、銀色に鈍く輝く手術用のメス。
それを手に握りしめ___……氷華の太ももに突き刺した。
「あぁう”っ…い”……や、やめて、くだ………」
酷い痛みに両目から涙が零れ落ちていく。
男はザクザクと何度かメスを抜き差しし、氷華の肉を抉ると、肉片を口に運ぶ。
ゆっくりと咀嚼し、そうして満足したのか、また引き出しの中へと戻っていった。
「ち、血が………う”~~っ………」
真っ赤な血が床一面に広がる。
もはや歩くことも難しかった。
なんとか薬品棚の扉のない棚から包帯を取り出す。
「はぁ、はぁ………」
左手首も火傷により傷むから、上手く包帯が巻けない。
……つらくて、立ち上がれない。
氷華は、七守くるりが来るまで、ずっと床に倒れ伏していた。
__……
「近づきましょうか、センパイ先どうぞ」
「ああ、うん。先に行くよ」
海岸を歩いていると、向こう側に注連縄の巻かれた大きな岩が見える。
そしてその周りに、小さな岩がいくつも。
もっと近づいて見ようとすれば、来夏ににこやかに先を譲られた。
目を凝らす。
すると、さきほどまでただの岩であったそれらひとつひとつが、見知らぬ女たちの顔になっていた。
ぎょろりと、沢山の顔に睨まれる。
「うわっ!?」
驚いて思わず大きな声が出てしまう。
沢山の女の顔の中で、ひときわ大きな顔がある。
それは……他の女たちと違い、色素の薄い、外国人のように思えた。
確か……一番大きな岩があったところだ。
「く、来夏、来夏!かお、かお!!!」
「ん?どうしたんですか?何か見ちゃったとか?」
何も気が付いていない様子の来夏に、見て見ろと指さす。
「ほら、あれ岩が……」
けれど、再び見たときには元通り、ただの岩になっていた。
……来夏の驚いた顔が見れるかと思ったのに。
「顔…多分女の人たちの…あれ?顔はないけど」
「えっ…普通の岩に戻ってるし…。あっ、なんかさ、1番大きな岩だけ色素薄くて外国人みたいな顔になってたんだよね…こう変わっちゃったけど」
「外から来た女ってそういうこと?抵抗したのってその人のことなのかな…見れなくて残念」
「そうなのかもしれないなあ…存在感あったし…?」
「外国人に厳しいだろうなぁ」
「同じ人間なのにね」
「俺たちにはそれが普通だけど昔の人からしたら化け物に見えたんじゃない?姿ちがうから」
「なるほど…昔と今じゃ全然違うか」
____…………………
今もなお営業しているかのように綺麗な喫茶店。
客席を通り、奥へと足を進めれば、厨房の中は美味しそうな匂いで満ちていた。
「……、何の匂い?」
匂いのもとを辿れば、鍋が火にかかっている。
そっと蓋を持ち上げてくりゅと一緒に覗き込む。
目が合った。
鍋の中にぎちりと女の顔が詰め込まれ、ぐつぐつと煮だち、湯気を発している。
それはぎょろりと目を動かして、口を開く。
「のろわれろ」
「おまえのはらのなかでわたしたちは わたし のろわれ のろわれろ」
「__ひ、ッ………!!」
驚いて蓋をがしゃんと床に落とす。
「…く、くりゅ、今の、……人の顔、…?」
「……そ、うね。そう、みたいだわ」
落とした蓋をくりゅが拾い、元に戻す。
そうして、何を思ったのか、火を消してしまった。
「くりゅ、火、けした…?」
「ええ、消したわ。危ないしね」
なんで?なんで余計なことをするの。
視界の隅でずっと存在を主張している女の顔がそこにあるのに。
目を逸らしても消えない。なのに。
「………………なんで…?」
「なんで……?うーん?火事になったら危ないから……?」
「くりゅは見えないの?…ずっと、あいつの顔が目に映ってる!気持ち悪い、気持ち悪い…!!!!だからこんなのそのまま燃やしちゃえば良いでしょ?なのになんで……!」
フードを押さえつけ、怒りをぶちまける。
ああ、もう、本当に最悪だ。
ずっと見られてる。気持ち悪い。
「……私にももちろん見えているわよ。……うーん、そうよね…………そう言われたら確かにそう」
「くりゅもそう思って、くれて良かった」
再び火をつける。
早く燃えてなくなってほしかった。
____………
久々利李々は、一人、自分たちが使っていたテントを見ていた。
前に見たまま、変わった様子はない。
特に何もないかと外へでる。
すると。
ぽたり。
頭上から何か……水滴が降ってきた。
雨も降っていないのになんだろうと空を見上げる。
そこには、見知らぬ顔があった。
通常の人間の倍以上もある……壮年の男性の頭。
「…………え?」
生首だけが、まるで風船のようにふわふわと宙に浮かんでいた。
それは、「ア……ア……」と口から涎をぼたぼたと垂れ流し、じっと虚ろな目で李々を見ている。
白く濁った瞳と視線が合う。
「……な、なに………?」
何も喋らず、ただ目の前で浮かんでいるだけの頭。
話しかけようかとも思ったが……また、前みたいになる可能性があるから。
ぎゅっと目を瞑り、振り返らずに走る。
ついては、こなかった。
____………
「待ってよ蒼センパイ…」
ちょっと揶揄いすぎたらしい、少し機嫌を悪くした蒼センパイを追いかければ、たどり着いたのは広場だった。
まだ来たことがなかった場所。
中央には、血の滴る木でできた台。
「あれ、最近使用済み?」
「来夏あの木の台見に行って」
「血のようなものが滴っておりまーす。…なんで?」
まあいいかと、木の台に近づく。
赤く濡れたそれを眺めていれば……気が付けば、目の前にバラバラに切り刻まれた自分の体があった。
「え…………俺?」
驚いて目を見張っている間に、周りにいる大勢の大人が寄って集って分割された自分の死体を箱に詰め、札を貼りつけていた。
宮司の服を纏った男の指示で彼らは各自木箱を手にし、村中へ散っていく。
後に、血まみれの台を残して。
「……………………封印の、様子?」
けれど気が付けば、元通りの景色に戻っていた。
「あ、あれ?」
う~ん、と考えながら、ごろんと台の上に寝転がる。
「…………………」
「えっ何してんの…?????」
若干引いたような戸惑った様子の蒼先輩の声。
「…………………なにか見えるかな、って」
「何か見えるかなって……いやまあ、いいけど…」
しばらく待ってみたけど、それ以降何も起きなかった。残念。
「蒼センパイ…何もおこんないっす」
仕方なく起き上がる。
どろりとした赤い血が服に纏わりついていた。
これ落ちるかな?
「そっか……めっちゃ服汚れてるよ」
「俺けが人みたい?」
「怪我人みたい。これはまずい誰にも見せるな」
「面白いから客間に帰ってみる?」
「ダメだって!面白がるんじゃない!」
ありゃ、怒られちゃった。
「ま、汚すのもなー」
じりじりと蒼センパイに近づいていく。
「ん?なんでおれに近づく?」
「毒を食らわば皿まで、そして旅人は道連れになる………」
「な、なに??いきなり様子がおかしくなった??頭大丈夫?」
「ね、俺今めちゃくちゃセンパイに抱きつきたいんだけど?」
血で汚れた手を伸ばして、にこにこと笑う。
センパイは引き攣った笑顔で少しずつ後ろへ下がっていく。
うん、まあ逃がす気はないけど。
「おれはそういう気分じゃないんだけどなあ…」
「……………だめ?」
「……………え?や、やめよう?」
「あはは!我慢できなーい。」
抱き着こうとすれば、
「我慢してくれよ!?」
肩を掴んで抵抗される。
「えー」
「えーじゃないおれも汚れる…」
「お風呂座敷くんが沸かしてくれてるよ。」
というか、揉み合ったせいで結局汚れてるしね。
「はぁーもういいや…今日はまだお風呂はいってないしいい機会ってことで…」
「センパイ優しいなー。そういう流されやすいところ大好き。」
「おれはそう言う来夏もなんだかんだ嫌いじゃないよ」
「俺は蒼センパイがつけ込まれそうでシンパイだよ。俺以外に浸け込まれないでね。」
「浸け込んで来るの来夏だけだから安心してよ」
「だといいけど?」
_____………
さて、今日は供養を試してみようかと廊下に出れば。
向こう側からりぃちゃんがふらふらと歩いてくるのが見えた。
「ぁ、りぃちゃん。おーい、」
「……?あ、新」
顔色が悪い。それに……仕方がないことだけど、痩せた気がする。
「…大丈夫?なんかちょっとふらついてる…」
「大丈夫、さっきご飯食べたから。これからはちゃんと食べる」
「そ…?ならいいんだけどさ、ご飯ちゃんと食べないと元気出なくなるよ」
「うん、平気。……新は、これから探索?」
「そっか…あ、そうそう。今から倉庫にある骨供養しようと思ってて」
地下にあった大量の骨、それに供養の仕方が書かれた本。
あの骨の持ち主たちの怨念が原因の一つなら、供養することで状況が良くなるかもしれない。
「そうなんだ?骨、沢山あったと思う。……私も一緒に行っていい?」
「え、…いいの?正直人手が欲しくって。ただ、骨にやったら虫がついてるから火で燃やさないといけないんだけど…肝心の火を付けるものがなくって、」
どうしようかと困り果てていたところだった。
くぎさんが言うにはライターが置いてあったらしいけど……。
「うんうん。マッチでもいい?それなら持ってきてる」
「え、マッチ持ってるの。助かる…、これで虫に刺されずに済むよ」
「刺す虫なの……?それは危ない。可哀想だけど、火でどうにかするしかないね」
「……百足、きしょくない?あれ素手で触るの危ないから一応軍手貰ってきたんだ。そう、だからマッチがあってよかった。」
「……うん、良かった、持ってきてて。それじゃあ、早速行こう」
必要な道具は揃えておいていたからと、二人で地下へと向かう。
扉は開きっぱなしだった。
棚に仕舞われ、埃をかぶった骨の数々。
そして、その表面には。
蟲が集り、眼孔や肋骨の隙間から湧き出る蛆や百足が時折棚から零れ落ちている。
「…いつ見てもきしょいな…」
「虫いっぱいだね……」
「肉があるようには見えないんだけどね…、燃やそ」
そっとマッチに火をつけ、蟲へと移す。
赤い光は虫を焼き尽くし、蟲たちは人の悲鳴のようにも聞こえる断末魔をあげ、最後は真っ黒な煙のようななにかとなり消えていった。
「ぅえ…蟲なのに人みたいになるのきしょ…、でも燃えてよかった。払っても全然落ちなかったしなぁ」
「………痛かったのかな……ごめんね……」
「声でか…うるさい。…消えてよかった…、」
さて、後はこれを墓地へと運んで、お墓を掘って埋めなくちゃいけないんだけど。
ざっと見た限り30人分くらいはありそうだ。
結局、全部運ぶのに半日はかかってしまった。
「ぅ゛あ〜…肩痛…しんど。ふらふらなのにこんなに手伝わせてごめんね…、」
「ううん、平気。……供養、してあげないと可哀想だから、ね……」
「そうだね…ただ、2人でする作業じゃなかった…次はもうちょい人呼ばないと…、」
「うん。もうあんまり調べるところもないから……呼んだら来てくれる人はいると思う」
「だよね…はぁ…皆に呼びかけよ、」
もうじき夜だから、全員分を埋める時間は無さそうだ。
手分けして作業し、なんとか2人分だけは埋められた。
「…よし、まだ2人分?だけど埋めれた。お花、添えなきゃなんだっけ、」
「うん。あと、卒塔婆……犠牲者の人の名前の帳簿、来夏が持ってるはず、確か」
「名前の、そうなんだ。あーちゃん先輩にも卒塔婆建てられてるもんね、この骨…人?たちにもいるよね」
「うん、そうみたい。だから今度来夏も呼ばないとだね」
「そうだね、来夏くんも呼んだら手伝ってくれそうだし。とりあえず今日は花だけでも添えとく?」
「うん。お花、添えておこう」
「ん、よし」
真っ白な百合を摘んで、墓へ添え、二人並んで手を合わせる。
「…これで少しでも良くなりますように…」
「…………」
ほんの少し、気のせいかな?くらいだけだけど。
村の重たい空気が、マシになったような気がした。
______………
山桜桃蒼、識想望来夏、三崎新、久々利李々、七守くるり、朝凪香澄の六人は、手分けをして供養へと向かっていた。
前日に新と李々が運んだ骨たち。
蒼、来夏、新は墓を掘り埋める作業を。
李々、くるり、香澄は卒塔婆に名前と没年月日を書く作業を、手分けして行っている。
「昨日運んだけど骨多すぎ。こんなに大量に人を殺してたんだなぁ…、」
新センパイがため息をつく。確かにこの量は結構な重労働だ。
「やー、みんな集まってくれて助かるわ。お菓子食べたし体力戻った?特にそこの…俺以外」
五人を見渡してやれやれと息を吐く。
「なんでご飯食べないかな。りりは幻覚見てたしさー」
いもしない兄の幻覚に怯えていたことを思い出す。
人手がほしいって言ったばっかりなのに、困ったもんだ。
「ごめん……食べるの、忘れてた」
「そうですよ!ご飯とっても大事です!!」
「お菓子のお裾分け助かった。もう乾パンくらいしか手持ちなくって勿体無いからさぁ…。ギリになるまではちょっと」
まあ、ここに来てからもう三週間経つし、食料も尽きてくる頃か。
「あ、そっか。早く出ないと死んじゃうね、俺達。さて、供養されてくれるといいんだけどね」
「そうそう。早く出られるように…ちゃんと鎮まってくれるといいな。」
「にしてもなんかみんな顔色悪くない?何かあった?」
「私は、特に何も……?」
「う〜ん…私は最近ちょっと怖い夢をみます…ストレスとかなんでしょうか…?」
「この村、やたら変なことが起きるからさ…来夏くんは?あんまなんも起きなかった?」
細かくは言わないのかあ。わりと、各自いろいろ起きてそうだけど。
「何もー?ちょっと首絞められたくらいで。笑い声と呪われろとか…。あ、でも蒼センパイと広場に行ったんですよね。そんとき台があったんで乗ってみました。血まみれになったけど」
何か起きるかと思ったのに起きなくて拍子抜けだったよと笑ってみせる。
「恐ろしいぐらい動じなくておれのほうがびっくりしたよ」
「なんかね、自分がバラバラにされる夢が見れるみたいだよ。あそこ。寝転がっても何も起きなかったけど」
「!?だい、だいじょうぶ……?」
「あはは、あの格好のままみんなのところに行こうとしたら止められたー」
「いや止めるに決まってるし…」
「絶対面白かったんだよな。ま、蒼センパイ道連れにできたので良しとしよう。あはは」
「思ってたよりいろんなこと体験してんな…。自分の体バラバラとか…ゾッとする。」
新センパイがうえ、っと青ざめた顔をする。
この人実体験的な…リアルなの苦手だもんなあ。
「そう?あー、俺だなーって感じだったけど。」
「なんでそんな軽いんだよ…」
「広場ねぇ……」
ふと、くるりセンパイが何か考えているような仕草をした。
もしかして、くるりセンパイも行ったのかな。広場。
「くるりセンパイなにか見つけたんですか?」
「……いえ、特に何もないわ」
「なにかある言い方だよ、それ」
「そういうつもりじゃないけど……広場っていつ行ったの?」
「一昨日くらい?なにかあるかなーって思って。蒼センパイ警戒してたからなんだろうと思ったらただの夢だったよ」
「そう。なら、いいの」
「ふーん?今度二人きりの時に教えてよ」
にっこりと笑顔を向ける。
随分含みがあるようだから、きっと俺が見たもの以外にも何か知ってるんだろう。
「別に隠してるとかではないんだけど」
「え、じゃあ教えてくれるの?」
苦笑いをして頷き、話し出す。
何だ、言いたくないわけじゃなかったのか。
「本当に何もないのよ、幻覚……夢?を見るだけ。最初行ったときは、木の台に押し倒されて自分の首が落とされる感覚を体験する夢で。次に行ったときは、その後、首が落とされた自分の四肢がバラバラにされるのを見ている夢で。昨日行ったときは、それが箱に入れられて街の人が運んでいる夢」
なるほど。
「んー?もしかして段階があったとか?俺はそのまま全部バラバラにされて、運ばれる夢を見たから」
「ええ、そういうことね」
「…………くるりは、なんで危ないって分かってて何回も広場に行くの……?」
「夢の中に手がかりがあるかもしれないからじゃない?ほら何かを伝えようとしてる夢ってあるらしいし。あれは…儀式の一部始終だと思った」
「あ、なるほど…」
「台の上で体をバラバラにされて、木箱に詰められて、御札をはられて、村のあちこちに持っていかれて…。俺たちが見つけた木箱の中の15歳くんはこれを体験したのかもしれない」
俺たちにとってはただの夢でも、座敷くんにとっては現実だったんだろう。
「あぁ、そうね。1回目のあとに新先輩と話してそれが儀式じゃないか〜って話をしたからっていうのはあるわ」
「ぇ、自分が言ったからわざわざ危険を賭して行ってたの?!ごめん…」
「…………次はもしかしたら、夢じゃ済まないかもしれないのに……」
新センパイと李々が心配そうにくるりセンパイを見る。
「別にそれだけが理由じゃないから気にしないで、新先輩」
「いやいや…普通に気にするから。皆危険なことすんなよぉ…、」
「皆に危ないこと、してほしくない…………」
「りりはどの口で言ってるんだか」
散々やらかしてるくせになあと呆れた声で言えば、どこかむっとした顔で反論される。
「私は別に危ないことしてない。ご飯は食べ忘れただけ」
「はいはい、パン口に突っ込んだらハムスターみたいに齧ってて可愛かったよ」
「かわいくはないとおもう……」
そんな会話をしている間に時間が経ち、あれだけあった骨も全て土の下だった。
「よし…一応埋められたかな。札は書き終わったー?」
「……うん、大体書いた、と思う」
女性陣が書いた卒塔婆……座敷くんからもらったらしい札を墓に刺す。
「あとは……お花」
「…よし、こんなもん…?」
「……うん。お祈り、しよう」
「ん、そだね」
全員で揃って手を合わせる。
重苦しい空気がかなり薄らいだような、そんな感じがした。
多分、これで間違っていないのだろう。
_________…………
村へ来てから三週間が経ちました。
山桜桃蒼・識想望来夏・三崎新・久々利李々・七守くるり・朝凪香澄が供養を行ったことにより、村の中の空気はかなり軽くなりました。
おめでとうございます。
脱出条件の一つはクリアされました。
しかしながら、いまだ村の外へ出ることはできません。
お客さんも、いなくなってはいません。
彼女たち__……怨念を発していた骨の持ち主たちの望みが供養ならば。
お客さんの望みは何なのでしょう。
そもそも、お客さんとは何なのでしょう?
時間切れになってしまう前に。
何をすべきなのかを、頑張って見つけましょう。
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